羊水染色体検査

羊水染色体検査の最も正確な検査はG-Band法と呼ばれる検査です。羊水の中に含まれる胎児細胞を培養して増やします。培養に2週間の時間が必要です。ギムザ染色をして染色体全てを顕微鏡で観察します。Giemsa Stein のGを使ってG-band法と呼ばれます。G-band法による染色体検査の結果ほぼ100%正しく、確定診断とすることができます。腫瘍の確定診断に組織検査が用いるのと同じで、治療方針を決定できます。これに対して羊水を用いて13、18、21番染色体と性染色体の異常を見るFISH法や母親の血液を用いて13、18、21番染色体の異常を見るNIPTがあります。検査時間は短いのですが、いずれも診断精度が100%ではありません。したがって、人工妊娠中絶などの行動決定を行う場合は、G-band法の結果を待つことになります。

 

 

羊水検査について、千葉がお医者向けの専門書に原稿を送りました。妊婦さんやご家族にとっても重要な情報ですから、専門家意外の人々にも理解できるよう、書き直してここに掲載します。

 

 羊水検査(原文のタイトルは羊水穿刺です。羊水のある場所を羊水腔といいます。様々な目的で羊水腔に細い針を刺し、羊水の採取などを行う事を羊水穿刺と言います。羊水検査という言葉は、羊水中にこぼれている胎児の皮膚細胞の染色体を調べる検査、羊水染色体検査をさしている事が多いようです。)

 

1.羊水穿刺の目的

羊水染色体検査、胎内感染や絨毛羊膜炎の原因となっている菌種の決定、血液型不適合により羊水中に漏れ出した黄疸関連物質の計測、羊水過多や羊水過少に対して羊水を除去したり、人工羊水を注入するなどの目的で実施されます。羊水染色体検査は、安全性、検査結果判明までの時期が比較的短時間、検査結果が判明してからの行動決定までの時間的余裕などから妊娠16週が最も適切とされています。ここでは比較的実施件数の多い、妊娠16週での羊水穿刺につき説明します。

 

2. 準備・使用器具

多くの場合、外来で実施されます。穿刺を行う場所は清潔を保てるところが望ましく、外来手術室、処置室、分娩室などが用いられます。ガイドに用いる超音波プローブは、通常の経腹用超音波プローブに穿刺用ガイドをつけたものがよく用いられます。穿刺用ガイドを用いず、いわゆるフリーハンドで穿刺を行う人もいますが、この場合は、より熟練を要します。プローブと穿刺用ガイドの無菌化のためには、使い捨ての専用プローブカバーと穿刺用アタッチメントを用いることが一般的です(商品名:シブコプローブカバー、通称ロングブーツ)。穿刺用ガイドを用いる場合は23ゲージのPTC針(株式会社八光)と呼ばれる全長200mm程度の長い針が用いられます。普通の23ゲージの少し長めのカテラン針でも使えますが、穿刺用ガイドを用いると、30mmほど余分に長さが必要になるので、羊水腔に達しないことがあります。羊水吸引採取のため、延長チューブ、三方活栓、20mlディスポ注射器、5mlディスポ注射器を用意します。5mlの注射器は穿刺時に母体血液が混入した場合、5ml側に廃棄するために接続します。エコーゼリー代わりには20mlの生理食塩水を用います。1200mm×1200mm程度の清潔撥水覆布、穴は小さくて良いので、清潔はさみを用意し、術者が現場で開けます。局所麻酔には1%キシロカイン10ml、麻酔用23ゲージカテラン針を用意します。腹部の消毒は、開腹手術に準じ、術者は清潔手袋を着用します。

 

3. 羊水穿刺の実際

子宮のなるべく血管の少ないところで穿刺を行います。血管は側壁と子宮下部に多いため、なるべく正中に近い部位で、子宮底部に近い所を穿刺部位として選択します。穿刺方向は、母体頭側に向かって斜めに針が刺入するようにする方が安全です。母体頭側から足方に向かって穿刺する場合は、穿刺経路に腸管がある場合もあるので注意が必要です。子宮側方から穿刺する場合も同様、血管や腸管に注意が必要です。胎盤を避けたいがために、子宮側方や、底部からの穿刺が選ばれることがありますが、腸管の存在が疑われる場合は、むしろ経胎盤穿刺を選んだ方がリスクは少ないと考えられます。胎盤を通過しない場合も胎盤を通過する場合でもカラードプラで血管を描写し、血管の多いブイは穿刺経路から避けるようにします。妊娠週数の若いときは、絨毛膜と羊膜が解離しており、羊膜腔の外に穿刺針の先が入ると、うまく羊水が吸引できないことがあります。

 

図)羊水穿刺の実際

妊娠16週、羊水染色体検査目的の羊水穿刺です。前壁付着胎盤で、胎盤と子宮底の間にわずかに隙間がありました。穿刺は母体のおへその下7cm、左右の真ん中、胎盤の上縁をかすめるように、母体頭側に向かって穿刺が行われました。羊水中にキラリと光っている部分が針の先端です。

羊膜が穿刺針内に吸引されて、羊水が吸引できなくなることもあります。こわごわ、ゆっくりと穿刺を行うと、羊膜を通過していないことがあるので、子宮壁から羊水腔に針を刺入する時は一気にすばやく刺入するのがコツです。羊水穿刺の術者は一人のことも多いので、すべての操作が行いやすいようにあらかじめ器具をセットしておきます。スリットコネクター付きの延長チューブの使用など片手での操作性が良い器具を選びます。

麻酔は1%キシロカインによる局所麻酔です。腹膜を通過するときにもかなりの痛みを感じつので、腹膜にも十分浸潤させます。採取された羊水は、注射器のままきっちりとキャップを装着し、染色体検査、細菌検査などの試料にします。

 

4. 羊水穿刺の安全性

羊水穿刺で危惧される事故に、破水、感染、出血があります。羊水検査を受けた胎児の1000分の3が妊娠を継続できなかったとする統計があります。1000分の3という数字がどれぐらいの意味があるかを説明します。日本の周産期死亡率は、妊娠22週以後の胎児や新生児が死亡する率のことを言いますが、世界中で一番低く1000分の3.5です。すると、先に述べた1000分の3と言われる羊水穿刺のリスクは、周産期死亡率の中に埋没してしまい、統計的に有意とは言えません。つまり、羊水穿刺を行なったから生存できなかったのか、もともと何らかの病気があるから羊水穿刺が行われ、病気の為に生存ができなかったのか区別はつきません。現在の超音波装置を用いて行われる羊水穿刺は、かなり安全な検査と考えてよろしい。しかし多くの症例の中には、事故がない訳ではないので、羊水穿刺の前に行うご家族への文書での説明には、「破水、感染、出血などが原因で流産を来すことがあります」と記述しています。

 

※「羊水を採取して、お腹の中の羊水が減ってしまっても大丈夫ですか?」と患者様からよくご質問があります。だいたい20分くらいでまた、元の量に戻ります。その話はこちらをご覧ください。

  おしっこの中でくらす胎児くん

 

  羊水検査に使う針